iemiru コラム vol.458
【インタビュー】インテリアデザイナー 小林 恭さん・マナさん 『公園の緑を借景に自然と共生する北欧スタイル』
北向きの旗竿敷地という難易度の高い要素をクリアし、心地よいグリーンビューを実現。 デザインと性能を兼ね備えたハイセンスな住まいの魅力に迫ります。
北側のリビングに配された大きな窓からは、四季折々の自然を眺望。
北欧暮らしに魅せられて
東京・井の頭公園に面した閑静な住宅街の一角。
設計事務所併設のすてきなお宅へうかがいました。
――シックな外観とは裏腹に、室内は明るく、木のぬくもりにあふれていますね。
「外壁を黒にしたのは、公園の景観を害さないようにするため。
公園側から見ると、うちがどこだかわからないほどなじんでいます」
料理をしながら眺める屋外の風景にも癒される。
――公園の目の前という好立地、土地選びの決め手は?
「以前から仕事場を兼ねた住まいを考えていたのですが、自然を身近に感じられる
場所がよくて、葉山や鎌倉あたりも探したんです。ただ、交通アクセスなどの問題で、
5~6年は吟味したでしょうか。ここは北向きの 旗竿敷地のためか、人気がなかったの
でしょうね。けれど、住むなら〝公園の近く〞ではなく、あくまで〝公園の前〞を希望
していた私たちにとっては、この上ない立地でした」
南側のテラスにはユーカリやレモンの木などを植樹。
――『自然を身近に』という発想は、どんなきっかけで?
「仕事で<マリメッコ>や<ラプアン カンクリ>といった北欧ブランドの店舗設計を
していた関係で、ヘルシンキ へ行く機会が多かったんです。フィンランドの人たちは
森が大好きで、よくキノコ狩りに連れて行ってもらいました。バカンスもしっかり楽しむ。
そんな人間らしい豊かな生活への憧れがあったんです」
北向きのメリットを活かしたプロならではの空間術
二階建てにロフトの付いた建物は、一階と二階を合わせて130㎡。
二階はリビング、寝室、バスルーム、ランドリールーム、
そして夫妻各自のマイルームといった居住スペースとなっています。
――設計はご自身でされたそうですが、ずばりコンセプトは?
「『公園を借景にした家』です。途中のプラン変更を含めて、設計に一年。
着工から7カ月ほどで竣工しました」
森の中にいるような眺めのバスルーム。シャワーのみの利用が多いため、バスタブと空間を分けた。
レコード類を約一万枚収蔵する恭さんの部屋。北側なので日焼けの心配がなく、保管にも◎。
――北側のお部屋から望む景色は緑がいっぱいで、森の中にいるようですね。
「北側は日差しを遮る必要がないので、あえてカーテンを取り付けていません。
また、バルコニーの柵をガラス張りにすることで、より広い視界を確保。
植物は基本的に日の当たる方へ成長するので、公園の樹々は我が家に対して、
正面を向いてくれているんですよ」
――借景には申し分ない条件ですね。お気に入りの季節は?
「新緑のシーズンはすごく気持ちがいいし、秋には紅葉が真っ赤に染まります。
それから、冬になるとメジロ、アトリ、エナガといった可愛らしい野鳥の姿を
落葉樹の枝に見ることができます。春夏秋冬それぞれに楽しみがありますね」
〈ミナ ペルホネン〉の生地を使ったカラフルなスクエアクッションは、組み合わせ自由自在。
ショーケースの中には、グイド・デ・ザンやシグネ・ぺーションといった作家のアイテムが並ぶ。
ふっくらとしたフォルムが愛らしいホロホロ鳥のオブジェ。
<B&O>のビビッドなスピーカーカバーは、テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさん作。
――シックな外観からは想像がつかないほど彩りあふれる室内ですが、特に壁一面のショーケースは壮観ですね。
「猫二匹と犬二匹を飼っているのですが、以前からいたずら防止の飾り棚を設置したかったんです。ガラス戸を付けたことで物を倒されることがなく、
ほこりもつかないので重宝しています。高窓の下にあるオーク材のキャビネットは、
もともと店舗用にデザインしたものをアレンジして使っています」
隣家に面した南側は高い壁で視線を遮り、光が降り注ぐハイサイドライトを設けた。
写真集の表紙を飾った美猫のマロンちゃん(9歳)
――今日は曇り空ですが、北向きながら明るい印象を受けます。
「隣家に接する南側は壁で仕切り、採光のために高窓を設けました。
外付けのブラインドは遮熱性があり、夏でも快適です。
日中はほぼ一階で過ごすので、天井にライトがなくても十分。
夜はそれなりに暗いですが、ムーディーでお店のような雰囲気に。
二人ともお酒が好きなので、リビングに水栓付きのミニバーを造作しました。
開けると自動でライトが点くので、暗い夜などは特に便利です」
キャビネットタイプのミニバー。扉を開けるとライトが点く。
――建具類もオリジナルですか?
「ドアなどにコンクリート型枠用合板を使っていて、
ライトグレーを基調に、差し色で黄色を入れています。
断面がミルフィーユ状に見えるのもデザインの特徴ですね」
ランドリー室内のトイレを自由に行き来できるネコちゃん専用ドア。
リネン類をしまう廊下のスライド式収納。
断熱対策も万全!大きな窓でも寒さ知らず
一階の間取りは、事務所とキッチン、そしてダイニング兼ミーティングルーム。
夫妻のお宅は意匠性だけでなく、快適に暮らすための動線や断熱性能に
おいても抜かりはありません。
――なぜ事務所とミーティングルームの間にキッチンが?
「ゲストにさっとお茶を出すことができますし、スタッフと一緒に
ダイニングを兼ねたミーティングルームで食事をとることが多いんです」
1階の事務所・キッチン・ミーティングルームは、回遊性のある間取り。
下部がクリアガラスのドアなら仕事中のご夫妻の様子が見え、寂しがり屋のワンちゃんも安心。
ダイニングテーブルの天板は、フローリング材で造作。テレビは書棚中央の黄色い戸の内側に収納。
木のぬくもりを感じる仕事場。陶芸家・鹿児島陸さんが描いたペインティング作品は迫力大。
――一階も北側からは気持ちのいい緑が見えますね。
「窓には複層ガラスを採用しており、床暖房も入れているので、
冬でもエアコンなしの状態で13 ℃を下回ることはありません。
さらに断熱材は寒冷地仕様で、通常の3倍程度の厚みのボードを入れています。
ポカポカとあたたかく、二階はエアコンが要らない日もあるんですよ」
窓の外を眺めるカカオ君(12歳)。小林さんたちは動物愛護団体「ランコントレ・ミグノン」の活動を支援しており、現在2匹の老犬を預かっている。
森の邪魔にならないシックな外観。春頃には、玄関先のミモザが一斉に花開くそう。
――最後に、今後考えている計画は何かありますか?
「デッドスペースとなりがちな旗竿部分の玄関アプローチに、畑を作りたいですね。
すべての北向きの家に我が家のような条件があてはまるわけではありませんが、
少しでもプランの参考になればと思います」
恭さん、マナさん、貴重なアドバイスをありがとうございました!
写真/杉能信介
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